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企業むすび コラム

大企業とベンチャーの協業実行できる役割分担の決め方

協業の役割分担を決める:実行・確認・変更判断を分ける

大企業とベンチャーの協業では、作業ごとに、実行する人、結果を確認する人、条件の変更を決める人を置きます。「当社は開発、貴社は営業」といった会社単位の分担だけでは、顧客への説明や日程の調整が誰の仕事か分かりません。

協業の方向が決まった後は、実際に仕事を渡せる担当表をつくりましょう。大企業の窓口担当者と、現場で作業する人や判断する人が同じとは限らないため、それぞれの参加も確認します。

この記事は、紹介や商談を進める前の部署探しではなく、合意した協業を実行するための分担を扱います。共同販売の説明用モデルを使い、引き受ける仕事と、その前後の受け渡しを整理します。

目次
  1. 「大企業は営業、ベンチャーは開発」を具体的な仕事に分ける
  2. 実行する人と、確認する人を別の欄に置く
  3. 担当表には、成果物と受け渡し条件を入れる
  4. 担当者の名前だけでなく、使える時間を確認する
  5. 共同作業でも、変更する人を曖昧にしない
  6. 次の会議は、空欄と受け渡しの不一致をなくすために使う

「大企業は営業、ベンチャーは開発」を具体的な仕事に分ける

分担表は、双方が提供したいものよりも、顧客に価値を届けるまでの仕事からつくります。誰も引き受けていない作業がないかを確認するためです。

例えば、補修部品の発注を支援するサービスを、スタートアップと商社が共同で販売するとします。編集部が作成した架空のモデルで、実際の顧客案件ではありません。

この場合、商社に顧客との接点があっても、提案資料の作成、見込み顧客への説明、導入条件の確認、問い合わせへの回答を、すべて商社だけが行えるとは限りません。サービスを知るスタートアップの説明が必要な場面もあります。

一方、スタートアップが製品の説明をできても、相手の営業担当が何をもって顧客へ提案できるかは、大企業側で確認する仕事です。営業資料の要望だけを受けるのではなく、実際に誰がどの場面で使うかを聞きます。

実行する人と、確認する人を別の欄に置く

作業を終えても、次の担当者が使えなければ仕事は進みません。担当表には、作ったものを誰が確認するかまで入れます。

協業の実行・確認・変更判断の役割
役割 担うこと 確認する問い
実行する人 合意した仕事を行い、必要な情報を渡す 何を、いつまでに、どの形で用意するか
確認する人 次の仕事に使えるかを確認する 何を見て確認完了とするか
変更を決める人 範囲・費用・日程の変更を判断する どの変更なら自分で決められるか
調整する窓口 進行状況を共有し、必要な人へつなぐ 判断できない場合に誰へ相談するか

四つの役割を四人に分ける必要はありません。同じ人が複数を担う場合も、どの仕事について、どの役割を持つかを確認します。

IPAのアジャイル開発の公式案内では、発注者側にも、開発に必要な情報や意思決定を提供する役割が示されています。ソフトウェア開発の説明ですが、「相手へ任せる」と「自社側の確認を担う」を分ける参考になります。情報システム・モデル取引・契約書(アジャイル開発版)

共同販売にこのモデル契約の条項をそのまま適用するわけではありません。以下の担当表は、今回の販売の仕事に合わせて編集部が整理した例です。

担当表には、成果物と受け渡し条件を入れる

「資料を作る」とだけ書かず、どの資料を誰が使える状態にするかを書きます。担当者が完成の認識を合わせやすくなります。

共同販売の仕事と受け渡し条件
仕事 実行する担当 確認する担当 受け渡すもの・条件
提案する顧客の選定 商社の営業担当 双方の事業担当 顧客の用途と相談したい課題が分かる候補
製品・提供範囲の説明 スタートアップの事業担当 商社の営業担当 現時点で提供できることと個別対応の区分
顧客への初回提案 商社の営業担当 双方の事業担当 面談の結果、次に確認すること、顧客の窓口
個別要望の検討 スタートアップの開発・事業担当 双方の変更判断者 対応案、必要な工数、費用、既存機能への影響
導入・運用の準備 取引ごとに双方が合意 顧客側の受入担当と双方の窓口 開始条件、連絡先、未完了の仕事
問い合わせ対応 窓口と回答担当を双方で合意 双方の事業担当 一次受付、技術確認、顧客への回答の手順

問い合わせ対応の欄では、「営業が受ける」と「営業が回答できる」を分けて考えます。技術的な判断が必要な問い合わせを誰へ渡し、誰が顧客へ返すかまで決めてください。

販売に関わる受注、請求、契約主体、収益の分け方などは、担当表とは別に取引条件として整理します。表に担当名を入れただけで、契約上の役割が確定するものではありません。

表を使うときは、自社の作業が終わった通知と、相手が受け取って使えると確認した通知を区別します。資料を送っただけで、その後の提案まで進んだと考えないでください。

前述のモデルなら、製品資料の確認時に、営業担当が「この資料で顧客のどの質問に答えられるか」を確かめます。不足があれば用途や必要な説明を絞って戻し、修正する担当と次の確認を決めます。

担当者の名前だけでなく、使える時間を確認する

名簿に載っていても、その人が作業に参加できるとは限りません。現場担当者や営業担当者が、今回の協業にどの時間を使えるかを確認します。

大企業の窓口担当者が、他部署へ協力を依頼している場合もあります。その人だけへ納期を求める前に、実行する部署が仕事を引き受けたかを確認しましょう。

相手の実行担当者がまだ決まっていないなら、その仕事の依頼先を確かめる役割を置きます。「双方で対応」と書いて空欄を隠すより、未決の項目として次の会議で確認する方が、着手できる範囲を判断できます。

イノベーション総研の新規事業調査にも、事業化を担う人材・組織の確保という課題が表れています。2026年4月に、従業員1,000名以上の企業で過去5年以内に新規事業へオーナー・リーダー・意思決定者として関わった888名を調べたもので、ベンチャーとの協業だけを対象にした結果ではありません。

この結果から、分担表をつくれば協業が成功すると言うことはできません。イノベーション総研は、担当者を決めるだけでなく、相手が実際に使える人員と時間を確認する背景として捉えています。

前述のモデルなら、商社の営業担当が、通常の商材と並行して新サービスを提案する場合があります。どの顧客へ、どの資料を使い、いつ提案できるかを具体化しないと、スタートアップだけが資料の準備を続ける状態になり得ます。

参加する人の予定が確保できない場合は、最初に扱う顧客や業務を絞る方法もあります。「全社へ展開する」と大きく約束する前に、実行できる範囲を合意しましょう。

共同作業でも、変更する人を曖昧にしない

双方で進める仕事ほど、誰が最後に決めるかが見えにくくなります。顧客の要望を受けたときに、営業担当者だけが納期や追加機能を約束しないよう、判断の手順を置きます。

例えば、共同販売中に「顧客向けの専用機能が必要」と言われたとします。スタートアップは対応可能性と工数を示し、大企業は顧客の用途と費用の見通しを確認したうえで、双方の判断者が進める範囲を決めます。

議事録には、依頼されたこと、検討中のこと、合意したことを分けて残します。「持ち帰って検討する」が「対応すると約束した」へ変わらないようにしてください。

契約や発注の変更が必要な場合は、その手続きと合わせて担当表も更新します。役割の変更が契約にどう影響するかは、合意した内容と取引条件を踏まえて確認します。

次の会議は、空欄と受け渡しの不一致をなくすために使う

担当表を完成させた後も、実際の進行に合わせて更新します。会議では全員の作業を読み上げるより、担当が空欄の仕事と、受け渡しが止まっている仕事を確認しましょう。

一つの仕事に複数の担当がいても構いませんが、相手へ完了を知らせる窓口は明確にします。主担当が不在になった場合の連絡先も置いておけば、確認待ちを別の人へつなげられます。

次の打ち合わせには、会社単位の分担案を、実行担当・確認担当・受け渡すものに分けて持参してください。導入を判断する部署の整理は、公開コラムのPoCから本契約へ進む条件も参考になります。