大企業向けの協業提案書は、相手の顧客や事業と自社の強みを組み合わせ、何を一緒に進めるかを示す資料です。会社紹介に加え、対象顧客、双方が提供するもの、最初に確かめること、次に相談したい仕事を書きます。
「貴社の販売網を使わせてほしい」だけでは、相手が参加する理由が伝わりません。一方、詳しい開発計画を先に決めても、相手の現場や顧客の条件が分からなければ、検討の前提が合いません。
紹介後の面談で関心のある領域が見えてきたベンチャーの経営者に向けて、協業提案書の構成と記入例を整理します。相手へ自社製品を販売するだけの営業資料や、先方の社内承認用の資料とは役割を分けて考えましょう。
目次
協業提案書は、双方が取り組む理由から書く
最初に示したいのは、何を一緒に行い、誰の役に立つかです。技術や製品の優位性を説明する前に、相手の事業との接点を置きます。
KDDIが公開したエクシング担当者の登壇レポートでも、目的を明確にし、双方の資産を使った具体的な事業提案を重視する考え方が紹介されています。協業の話を、何か一緒にできないかという相談だけで終わらせないことが参考になります。KDDI MUGENLABO Magazine「エクシングのオープンイノベーション戦略」
ベンチャー側では、自社の目的、相手の目的、共通で確かめたいことを分けて書いてみてください。目的が同じでなくても、一緒に行う仕事が双方の事業へつながるなら提案できます。
たとえば、自社は店舗向けサービスの販売を増やしたく、相手は顧客店舗への提案内容を充実させたい、と整理できます。そのうえで、同じ店舗に対して、何を組み合わせて提供するかを考えます。
相手の目的をまだ聞けていない場合は、「貴社はこの事業を求めている」と断定しません。「このような価値につながると考えており、面談で確認したい」と、仮説として示します。
提案書は、六つの内容をひと続きにする
協業提案書には、事業の仮説と、最初の仕事がつながる構成を置きます。以下は企業むすび編集部が作成したモデルで、ページ数や書式を固定するものではありません。
| 内容 | 提案書に書くこと | 読み手が確認すること |
|---|---|---|
| 対象顧客と課題 | 誰の、どの場面を改善するか | 自社の事業や顧客に関係するか |
| 提供する価値 | 今の方法がどう変わると考えるか | 顧客にとって使う理由があるか |
| 双方が出すもの | 製品、顧客接点、運用の知識、設備など | 実際に提供できる条件は何か |
| 提供の流れと役割 | 提案、利用開始、顧客対応を誰が担うか | 足りない仕事や負担がないか |
| 最初の検証 | 何を、どこまで確かめるか | その結果で次に何を判断できるか |
| 次に相談すること | 参加者、必要情報、費用を具体化する準備 | 今回の面談で何を決めるか |
製品の詳しい仕様は、必要な人が見られる別紙にできます。初めて読む人が、今回の提案の目的と双方の役割を追えることを優先してください。
将来構想を載せる場合も、今の提供範囲とは分けます。将来の全機能や全社展開を、最初の協業で実施する内容として並べないようにします。
記入例:店舗向け発注サービスを共同で提案する
飲食店向けの発注支援サービスを持つベンチャーが、食品卸会社へ共同提案を相談する架空例で考えます。以下は書き方を説明するモデルで、実在する企業や支援実績ではありません。
ベンチャーには、店舗が発注内容を整理するサービスがあります。食品卸会社には、飲食店との取引関係と、注文や納品に関する現場の知識がある、という設定です。
自社が食品卸会社へサービスを購入してもらう話と、卸会社の顧客である飲食店へ共同で提供する話を分けます。今回の提案は後者で、顧客に届ける仕事を両社でどう担うかを考えます。
| 提案書の欄 | 架空例での書き方 |
|---|---|
| 対象顧客と課題 | 日々の発注内容を整理し、スタッフ間で確認する必要がある飲食店 |
| 提供する価値の仮説 | 店舗が発注内容を確認し、卸会社へ必要な情報を伝える仕事を支援する |
| ベンチャーが出すもの | 現在提供できる発注整理機能と、利用開始時の説明 |
| 卸会社へ相談したいこと | 店舗の仕事を知る担当者との対話、顧客への提案の仕方 |
| 最初の検証 | 店舗の発注の流れを聞き、現在の機能で支援できる範囲を確認する |
| 次の判断 | 共同で試す用途、参加者、個別対応と費用を整理するかを決める |
この時点では、効果や売上を保証していません。店舗の仕事とサービスの機能が合うかを確かめ、合わない部分を個別開発するか、運用で対応するかを次に検討します。
相手が多くの顧客を持つことは、すべての顧客へ案内できることと同じではありません。提案書では、使える顧客接点を相談事項として示し、利用範囲を相手と確認します。
強みの一覧を、顧客へ届ける役割へ変える
「当社は技術、貴社は販売網」とだけ書くと、誰が顧客へ説明し、使い始める準備をするかが抜けやすくなります。顧客の行動に沿って、必要な仕事を分けてください。
先ほどのモデルなら、少なくとも次の仕事が考えられます。
- 対象店舗へ、今回の提案を説明する。
- 店舗の現在の発注手順と、必要な機能を確認する。
- 利用する設定や情報を準備する。
- 店舗スタッフへ使い方を説明する。
- 問い合わせに対応し、利用後の課題を確認する。
提案書では、「誰が担う予定か」「まだ決まっていないか」を区別します。未定の仕事まで、相手の担当として書き込まないでください。
たとえば、顧客への最初の案内は卸会社へ相談し、サービスの操作説明はベンチャーが担う案を出せます。ただし、卸会社が導入後の問い合わせ対応まで行うかは、別の確認が必要です。
共同で販売する場合は、顧客との契約、料金の受け取り、収益の分け方、利用後の支援も整理します。初回の提案で詳しい契約を確定する必要はありませんが、あとで決める仕事として残しておきます。
料金の額を提案する前に、誰が何に対して支払う想定かを合わせてください。店舗から利用料を受け取る案と、卸会社が自社の顧客向けサービスとして購入する案では、販売する仕事と費用の前提が変わります。
まだ収益の仕組みを決めていない場合は、候補を仮説として記し、顧客が使う理由と合わせて相談します。見込みの売上を、確定した取引額として提案書に載せないことが大切です。
最初の検証は、まだ分からない問いから決める
検証の目的は、提案書に載せた構想の全部を実現することではありません。次に進むか判断するために、今まだ分からないことを確かめます。
店舗の課題が確認できていないなら、最初は店舗担当者への聞き取りです。課題は分かっていても機能が合うか未定なら、対象業務を絞った試行が候補になります。
先ほどの発注支援のモデルなら、「現場の発注内容を当社の標準機能で整理できるか」「卸会社へ渡す情報が足りるか」を分けて確認できます。新しい機能を作る前に、今ある機能で分かることを選びます。
検証案には、確かめる対象、双方の作業、結果を確認する人、その後の判断を載せてください。個別対応が発生する場合は、必要な人員と費用も同時に相談します。
構想の説明を見てもらう面談と、有償で仕事を依頼される検証は別です。発注や作業開始の前に、合意する範囲を確認します。
提案書の最後は、次に判断してほしいことにする
末尾には、相手へ今回判断してほしいことを短く書きます。「ぜひ連携しましょう」だけでは、担当者が次に何をすればよいか分かりません。
架空例なら、次のような相談になります。
貴社の顧客店舗の発注業務と、当社の標準機能が合うかを確認したいと考えています。まず、顧客店舗の仕事をご存じの担当者と、対象業務についてお話しする機会をご相談できますでしょうか。その結果をもとに、試す範囲と双方の役割、必要な費用を整理します。
相手にお願いする参加者と、面談の目的を一緒に書いていることが要点です。共同販売をいきなり承認してもらう依頼とは分けています。
提案後は、どの仮説が相手の事業に合い、どの条件が合わなかったかを記録します。資料全体を作り直す前に、対象顧客、双方の役割、最初の検証のうち、どこを直す必要があるかを選びましょう。