CVC(事業会社によるベンチャー投資)と業務提携は、得たいものを分けて検討します。資金が必要なのか、販売先や実行する相手が必要なのかを整理し、出資の話と事業を進める約束を別々に確認しましょう。
出資を受けることが決まっても、その会社の顧客へ販売できるとは限りません。反対に、製品の導入や共同販売を進めるために、出資が常に必要なわけでもありません。
創業間もないベンチャーの経営者がまず考えたいのは、次の成長に足りないものと、その連携で自社が引き受ける条件です。このコラムでは、特定の投資を勧めるのではなく、事業会社との相談に持ち込む問いを整理します。
目次
CVCと業務提携は、何を交換する関係かが違う
CVCは、事業会社によるベンチャーへの投資を指します。例えば三菱商事は、CVCの設立発表で、スタートアップへの投資と、顧客ネットワークなどを使った成長支援を説明しています。三菱商事「CVC設立に関するお知らせ」
業務提携では、販売、製品の提供、共同での事業展開など、実際の仕事をどう進めるかを決めます。出資も含めて連携する場合は、資本面の条件と業務面の条件をそれぞれ確認します。
次の表は、企業むすび編集部が作成した相談準備用の比較です。契約上の分類や、すべてのCVCに共通する支援内容を確定するものではありません。
| 相談する関係 | 最初に整理すること | 別に確認すること |
|---|---|---|
| 出資を伴わない業務提携 | 販売や導入など、双方が進める仕事 | 費用、担当者、成果や情報の利用条件 |
| CVCからの出資 | 資金の使い道、投資の条件 | 事業部門の参加、紹介・販売などの具体的な協力 |
| 出資を伴う業務提携 | 出資の目的と事業連携の目的 | 両方の契約の関係、進まなかった場合の扱い |
大企業との連携を始める目的が販売先の開拓なら、出資の相談だけでその目的を達成できると考えないようにします。投資が必要かは、自社が進めたい事業と資金計画を整理して判断します。
資金が必要なのか、事業を進める協力が必要なのかを分ける
自社が欲しいものを、資金、販売への接点、現場や技術などの実行条件へ分けます。資金が必要であっても、必要な業務協力が同時に得られるとは限りません。出資だけを検討する話と、事業を実際に進める話を並べて判断します。
営業先への紹介が主な目的で、手元資金から標準製品を提供できるなら、まず出資を伴わない業務提携で用途や役割を合わせる案があります。追加開発や事業拡大へ資金が必要なら、資本政策を含む投資の検討と、事業部門との活動の検討を両方進める必要があります。
投資先として選ばれたことは、自社の製品が相手の顧客に売れると確認できたこととは違います。投資資金が入る日までに業務提携を確定させる必要があるか、業務だけ先に始められるかは、相手と自社の事情を踏まえて相談します。
| 今足りないもの | 検討する関係 | 受ける前に具体化すること |
|---|---|---|
| 販売先への接点 | 顧客紹介・販売協力などの業務提携 | 対象顧客、担当部署、紹介と営業の分担 |
| 現場やデータを使う検証 | 利用条件を合わせた業務提携 | 現場の受入、利用範囲、費用と成果の扱い |
| 開発・成長のための資金 | CVC等の出資を含む資金調達 | 資金使途、株主としての条件、業務協力の別の約束 |
これは優劣や投資収益を決める表ではなく、経営者が足りないものを切り分ける編集部モデルです。自社の資金需要と資本政策、相手が担う仕事が異なれば、選ぶ関係も変わります。
投資担当者と、事業を進める部署を両方確認する
投資担当者が評価していることと、事業部門が使いたいことは、必ずしも同じではありません。どちらの検討が進んでいるかを区別して聞きましょう。
投資担当者には、投資の目的と検討条件を確認します。事業の連携も期待するなら、どの部署と何を検討する予定かを聞き、実行側の担当者と話す機会を相談します。
事業部門には、提案を使う顧客や現場、最初に必要な作業を確認します。投資の判断が終わるまで着手できないのか、出資とは別に小さな取引から始められるのかも、双方の事情を踏まえて相談します。
最初の面談では、次の質問が使えます。
- 今回の出資で、どの事業上の連携を想定されていますか。
- 実際に検討・実行する部署はどこでしょうか。
- 顧客紹介や販売の協力は、誰がどの範囲で担いますか。
- 出資と業務提携の検討は、どの順序で進めますか。
- 業務面の検討が進まなかった場合、どのように見直しますか。
相手の答えがまだ決まっていないなら、その点を未確認として残します。投資担当者の善意や口頭の期待を、事業部門が提供する確定した仕事として扱わないことが大切です。
出資の条件は、今後の経営判断への影響を聞く
資金額だけを比較する前に、自社の経営や次の資金調達、他社との取引に関わる条件を確認します。条件の名称だけで良し悪しを決めず、自社の計画にどう影響するかを専門家に聞きます。
公正取引委員会と経済産業省の指針は、出資契約の内容として、株式の発行条件や資金使途に加え、投資後の事前承認・通知、経営への関与、情報開示などの取決めを整理しています。出資時だけでなく、その後の関係も確認する必要があります。公正取引委員会・経済産業省「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」
専門家へは、例えば次のような問いを持ち込みます。
- 出資後に、どの経営判断が事前承認や通知の対象になりますか。
- どの情報を、どの相手へ、どの頻度で報告する条件ですか。
- 他の事業会社との取引や、次の資金調達に影響する条件はありますか。
- 投資契約と業務提携契約の条件が、矛盾していませんか。
- 既存の株主や顧客への約束と、両立できますか。
こうした条件があること自体を、直ちに不適切とするものではありません。目的、範囲、自社の状況を説明して、資本政策と契約の両面から確認します。
モデル:販売先の開拓を、出資の期待だけで進めない
法人向けサービスを提供するベンチャーが、大企業のCVCから出資を検討されている架空のモデルです。経営者は資金に加えて、大企業の取引先への販売を期待しています。
この場合、投資の相談資料とは別に、どの顧客に何を販売するかを整理します。事業部門が顧客へ提案するのか、紹介を受けてベンチャーが営業するのかで、双方の作業と費用が変わります。
最初に「出資が決まれば販売も始まる」と計画へ書かず、紹介や販売を担う部署、提案する顧客、必要な資料を確認します。まだ決まらなければ、出資のメリットと未確定の業務協力を分けて、自社の資金・営業計画を検討します。
業務提携のみで始める案も、出資と組み合わせる案もあり得ます。このモデルは選択肢の整理であり、どちらが経済的に有利かを決めるものではありません。
相手と進め方を選ぶための、一枚を作る
出資の相談前に、経営者として求めるものと、まだ確かめていない協力を記録します。金額や条件が未提示なら、空欄のまま確認する相手と時期を置いて構いません。
| 整理する欄 | 記録する内容 |
|---|---|
| 自社の目的 | 今回進める事業と、足りない資金・販売・実行上の条件 |
| 投資の検討 | 相手、検討段階、提示条件、専門家への相談事項 |
| 業務の検討 | 実行部署、担当者、双方の具体的な作業 |
| 未確定の期待 | 顧客紹介、販売、人員、設備など、まだ合意していない協力 |
| 次の確認 | 誰と何を相談し、自社が何を判断するか |
「大企業と関係を持てること」だけでは、自社が負担する条件と比較できません。この一枚で、期待している協力がどこまで具体化しているかを点検しましょう。
出資後の報告と、事業連携の活動を分けて設計する
イノベーション総研の代表は、大企業でベンチャー投資に携わった経験について、投資先の管理に重点が置かれ、何を検証し、どの活動で相乗効果を生むかまで進められなかったと振り返っています。本人の経験であり、すべてのCVCや投資先の実態を表すものではありません。
みずほ総合研究所が継続的な投資活動を行うCVC10社へ聞いた調査でも、出資後の事業連携を拡大することが課題として扱われています。少数の企業へのヒアリングで、各ベンチャーの成功確率を示すものではありません。みずほ総合研究所「CVCによる出資の先に何が起きているのか」
企業むすびの見解:資本関係ができた後も、共同で何を判断し、どの部署が実行するかを決める仕事が残ります。投資後の報告を丁寧にすることと、顧客へ提案する活動を進めることは両方必要です。管理の会議に営業や検証の希望を持ち込むだけでなく、事業部門が参加する場と作業を別に具体化します。
前述の架空モデルなら、投資担当者へ事業の状況を報告するだけでは、顧客紹介の段取りは決まりません。紹介や販売を担当する人と、対象となる顧客、面談で確認したい内容を別に相談します。
経営者が確認したいのは、「報告をしたか」と「期待した事業協力がどこまで具体化したか」の両方です。協力が進まない理由が、担当者未定、顧客との不適合、条件調整のどれなのかを分け、次の相談を決めます。