ベンチャーとの連携に使う自社の資産は、持っているものの一覧ではなく、提供できる条件まで整理します。顧客、販路、設備、データ、人材ごとに、管理する部署と利用条件、先方に求める準備を確認しましょう。
新規事業担当者が「店舗も顧客基盤もあります」と伝えても、どの場所を、誰が、どの目的で使えるかが未定なら、ベンチャーは提案を具体化しにくくなります。保有していることと、今回の連携に使えることを分けるのが出発点です。
このコラムでは、アセットを「連携に使える顧客接点、場所、仕組み、人員などの資産」として扱います。探索の前に、相手へ提示できる提供資源表を作ります。
目次
資産の大きさより、相手に何を提供できるかを書く
全国の顧客や設備があっても、連携に使う範囲が決まっていなければ、相手は必要な人員や日程を見通せません。「多くの店舗」より、「どの店舗でどの作業を相談できるか」を整理します。
KDDIのMUGENLABO支援プログラムは、大企業各社の課題と提供可能なアセットを公開しています。設備だけでなく、顧客との接点、施設内の場所、ネットワークなども掲載されており、相手へ具体的に示す内容の参考になります。KDDI「MUGENLABO支援プログラム2026」
公開された資産が、すべての応募企業へ無条件に提供されるという意味ではありません。自社でも、提供したいものと、用途や条件を確認してから決めるものを分けます。
資産の名称を書いたら、次の文を続けてみてください。「その資産を使うと、ベンチャーはどの仕事を進められるか」です。
顧客・販路・設備・データ・人材を具体的な仕事へ直す
以下は編集部が作成した棚卸し用のモデルです。保有規模を並べるだけでなく、連携先が行いたい仕事へつなげて書きます。
| 資産の種類 | 提供する仕事の例 | 社内で確認すること |
|---|---|---|
| 顧客との接点 | 利用者へのヒアリング、提案先の紹介 | 接点を持つ担当者、目的、連絡する範囲 |
| 販路・営業 | 顧客への提案、商品の取り扱い検討 | 営業や仕入れの担当者、販売条件 |
| 設備・場所 | 店舗、事務所、現場での利用確認 | 管理者、利用できる場所・時間、受入条件 |
| データ・知見 | 業務の理解、仮説の検討 | 提供できる情報、利用目的、必要な確認 |
| 人材・運用 | 現場への導入、顧客対応、専門的な確認 | 担当者の役割、時間、費用、決められる範囲 |
同じ資産でも、用途によって提供する仕事は変わります。顧客に会う機会をつくることと、その顧客へ共同で販売することは別の協力です。
自社が直接提供できないものは、関連会社や外部の管理者との調整が必要かを確認します。新規事業担当者だけの判断で、相手に利用できると約束しないようにしましょう。
管理する部署と、提供を決める人を確かめる
探索担当者が資産を知っていても、利用を決める権限を持つとは限りません。管理している部署と、今回の目的で使うことを判断する人を確認します。
社内へは、相手企業が何を行い、自社には何をしてほしいかを伝えます。「ベンチャー支援に協力してください」だけでなく、対象、作業、利用条件を説明する必要があります。
例えば、店舗を使うなら、場所を貸す仕事だけとは限りません。入退店、利用者への案内、既存の仕事との調整、終了後の片付けなど、現場側に発生する作業も確認します。
資産を提供することが、担当部署の仕事にどう関係するかも話します。顧客の理解につながる、将来のサービスを検討できるなど、何を確認したいかを合わせると、協力の範囲を相談しやすくなります。
提供資源表には、条件と未確認点を残す
紹介先へ渡す表は、使える資産の宣伝ではなく、検討できる範囲を共有するものです。未確定の条件は未確定と示し、確認する相手を置きます。
| 記録する欄 | 記載する内容 |
|---|---|
| 提供する資源 | 相手が何の仕事に使えるものか |
| 管理部署・担当者 | 誰に用途と利用条件を相談するか |
| 利用できる範囲 | 場所、対象者、時間、情報などの範囲 |
| 先方の準備 | 人員、機材、説明資料、提供するサービスなど |
| 自社の作業 | 案内、調整、確認、運用など |
| 費用と条件 | 誰が何を負担し、どの合意が必要か |
| 未確認点 | 何を、誰が、どの時点までに確かめるか |
「相談できる」と「提供が決まっている」を同じ状態にしないようにします。先方が人員を確保したり開発を始めたりする前に、利用可否を判断する条件を共有してください。
また、社外へ出す表には、必要な範囲の情報を載せます。公開できる説明と、具体的な相手・目的を確認したうえで共有する詳細は分けます。
モデル:販売店との接点を、提案できる資源へ整理する
住宅設備を扱う大企業が、販売店との接点をベンチャーとの連携に使う架空のモデルです。ベンチャーは、販売店が顧客へ提案する仕事を支えるサービスを持っています。
大企業が「販売店ネットワークを提供します」とだけ伝えると、ベンチャーは一斉に営業できると期待するかもしれません。しかし、まずできることが、営業担当者を交えて課題を聞く面談である可能性もあります。
このモデルでは、販売店の仕事を理解する面談、サービスの利用確認、販売の協力を分けます。最初の面談を相談する段階なら、対象となる販売店、紹介を担う担当者、聞きたい業務を整理します。
| 資源の説明 | 確認する条件 | ベンチャーへ伝える状態 |
|---|---|---|
| 販売店の仕事を聞く接点 | 担当者、対象となる販売店、面談の目的 | 営業担当者へ調整を相談する段階 |
| サービスを試す場 | 利用する担当者、対象業務、費用 | 利用部署と条件を協議する段階 |
| 販売の協力 | 顧客対応、提案する商品、対価、役割 | 最初の面談とは別に検討する内容 |
この表があれば、自社がまだ決めていない協力を、確定した提供として伝えずに済みます。相手も、自社が行う面談や開発の範囲を選びやすくなります。
データと人材は、利用目的と担当作業まで示す
「データがあります」と伝えるだけでは、相手が行いたい分析やサービスに使えるかが分かりません。どの業務のどの情報を、何の目的で扱うかを先に説明します。
提供できる範囲、加工や環境の準備、情報の扱いに必要な社内確認を整理します。個人情報や第三者の情報、契約に関わる条件がある場合は、社内の専門部署と確認してから共有します。
人材を提供する場合も、職種だけでなく担当する仕事を示します。新規事業担当者が面談に同席することと、現場の運用担当者が日々の対応を担うことは別です。
誰がどの作業を引き受けるか、通常業務との兼ね合いを含めて確認します。相手が求める人員を用意できないなら、その状態を伝え、最初に行う仕事を調整します。
提供後の受入と終了も、資源の条件に含める
場所を使う日程が決まっても、受入作業が決まっていなければ、実際の利用を始められない場合があります。連絡する窓口、現場の案内、問い合わせの対応、問題が起きたときの連絡先を合わせます。
例えば、ベンチャーが自社の店舗へサービスを持ち込むなら、現場の通常業務とどのように両立するかを相談します。担当者が不在でも進められる仕事と、現場担当者の参加が必要な仕事を分けておきます。
利用が終了するときも、設備の撤収、情報の扱い、現場へ残る作業を確認します。一度利用できた資源を、同じ条件で継続利用できると決めつけず、次の利用範囲を改めて相談してください。
こうした条件まで示すと、ベンチャーは準備する人員と費用を見通せます。資産を多く提示するだけでなく、相手が実際に仕事を進められる提供内容へ整えることを目指します。
最初の用途に合わせ、使える資産を絞る
すべての資産を一度に開放する必要はありません。紹介候補の事業を知った後、最初の用途を確かめるのに必要な資源へ絞ります。
使う資産を広げる場合は、担当部署、利用条件、費用も改めて確認します。初回の小さな面談や利用確認が、その後の大規模な販売・運用の約束を含むと考えないようにしましょう。
棚卸しの成果は、長い資産リストより、相手へ具体的に提示できる提供内容です。紹介を受ける前に、利用可否が未確認の欄を一つずつ確かめます。