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企業むすび コラム

スタートアップの大企業営業既存サービスを購入検討につなぐ

大企業への営業:製品を、購入検討につなぐ

スタートアップが大企業に既存の製品・サービスを売るなら、利用部署の課題と、自社の標準機能が合うかを先に確認します。そのうえで、購入する範囲と費用、必要な手続きを合わせ、具体的な購入検討へ進めましょう。

会社紹介や製品デモに関心を持ってもらっても、誰が使うかが決まらなければ、見積の条件は定まりません。創業間もないベンチャーでは、社長の営業時間や開発人員を使う先を選ぶためにも、商談ごとの条件を把握したいところです。

このコラムでは、すでに提供できる製品・サービスを大企業に販売する場面に絞ります。共同事業や出資の検討へ広げる前に、現在の商品を、誰に、どの条件で購入してもらうかを整理します。

目次
  1. 大企業への販売は、実際に使う部署の仕事を聞く
  2. 標準機能で満たせる条件を、面談で分ける
  3. 購入前の手続きは、必要な項目と担当者を聞く
  4. 小口導入では、使う範囲と継続の判断を合わせる
  5. 商談の記録は、関心より購入条件を残す

大企業への販売は、実際に使う部署の仕事を聞く

窓口の担当者が製品に詳しいとは限りません。新規事業担当者や紹介者との面談なら、実際に使う部署を把握しているかを確認します。

利用部署が面談に参加していれば、仕事の流れと現在の対処方法を聞きます。「効率化したい」という回答を、自社の機能にすぐ結びつけず、何に時間がかかり、どこを変えたいのかを確かめましょう。

初回面談では、例えば次の質問を使えます。

  • どの部署の、どの仕事で使うことを検討されていますか。
  • 現在は、どのような製品や方法を使っていますか。
  • 今の方法で解消できていない問題は何でしょうか。
  • 新しいサービスを選ぶうえで、外せない条件はありますか。
  • 実際に利用する方にも、この条件を確認できますか。

相手が新規事業の探索段階で、用途をまだ決めていない場合は、無理に購入の商談として進めなくて構いません。用途を探す相談と、具体的な購入条件を決める商談を分けると、自社が次に用意するものを選びやすくなります。

用途が見えている場合は、デモの順序も変えます。すべての機能を順に説明するより、相手が変えたい仕事に対応する操作や出力を示し、利用時に困る条件がないかを聞きます。

標準機能で満たせる条件を、面談で分ける

購入への関心があっても、先方の条件をすべて満たせるとは限りません。標準の製品で提供できること、追加確認が必要なこと、現在は対応できないことを分けます。

経済産業省の「共創パートナーシップ 調達・購買ガイドライン」は、スタートアップの製品・サービスを購入し、初期検証から本格導入へ進める方法を整理しています。大企業との連携には、既存の商品を買ってもらうという進め方があります。経済産業省「スタートアップ企業と事業会社の連携」

営業では、購入後に使えることを確認するため、自社の商品と先方の条件を照らし合わせます。以下は、企業むすび編集部が作成した確認用のモデルです。

購入条件と標準機能の適合を確認する
先方の条件 自社の対応状態 面談で決めること
標準機能で対応できる 提供内容と条件を説明できる 利用範囲と見積の前提を合わせる
使用環境によって変わる 接続、データ、運用などの確認が必要 誰に何を確認すれば判断できるかを決める
個別の開発・運用が必要 標準提供の範囲を超える 対応するか、別の条件を提案するかを決める
現時点では対応できない 提供を約束できない 他の範囲で利用できるか、今回は見送るかを確認する

この表で大切なのは、未確認の条件を「できる」と答えないことです。会社の知名度や将来の取引規模を理由に、提供できる範囲を広げ続けると、販売の商談が個別開発の依頼へ変わってしまいます。

個別対応を検討する場合は、自社の他の顧客にも役立つ開発なのか、一社のための作業なのかを分けて考えます。営業担当だけで約束せず、提供責任を持つ人と費用・時期を確認してから返答します。

モデル:問い合わせ整理サービスを一部署に販売する

以下は、法人向け問い合わせ整理サービスを大企業に販売する架空のモデルです。実際の受注事例や顧客、導入効果を示すものではありません。

先方は、複数の窓口に届く問い合わせをまとめて確認したいと考えています。ベンチャーの標準サービスは、一つの窓口で受けた内容を整理できるため、まず対象を一つに絞って利用できるかを相談します。

面談で「既存の全システムと自動連携してほしい」という希望が出た場合は、標準機能だけで満たせるかを確認します。難しければ、接続する範囲を狭める、先方の運用で補えるかを聞く、追加対応を別に検討する、と選択肢を分けます。

その場で将来の全機能を約束する必要はありません。今回販売できる範囲を示し、その範囲でも先方が使う価値があるかを確かめます。

購入前の手続きは、必要な項目と担当者を聞く

取引先登録、見積の書式、契約、情報システムやセキュリティの確認など、求められる手続きは企業と商品によって異なります。すべての大企業に同じ手続きがあると考えず、先方に必要な範囲を聞きます。

商談担当者にすべてを答えてもらうのではなく、必要な確認を担う人へつないでもらうことが目的です。「契約に向けて、当社が先に準備する資料を教えていただけますか」と聞くと、次の作業を合わせられます。

資料を用意する前に、次の点を確かめます。

  • 購入手続きを進める部署と、自社から連絡する窓口。
  • 取引先登録や見積に必要な情報と提出方法。
  • 利用するデータ、接続環境、運用について確認が必要か。
  • 契約の確認を始める時期と、先方指定の条件の有無。
  • 利用を開始したい時期と、開始前に完了すべき確認。

資料提出を急ぐために、顧客データや技術上の秘密を必要以上に渡さないことも大切です。公開情報で説明する内容と、秘密保持契約を結んだうえで扱う情報を分けます。

公正取引委員会と経済産業省の指針は、協議に必要な情報の開示範囲を整理し、秘密情報の目的・対象・範囲について認識を合わせる考え方を示しています。個別の契約条件は、先方の担当者や専門家に確認しましょう。公正取引委員会・経済産業省「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」

小口導入では、使う範囲と継続の判断を合わせる

初回から全社導入を求めるより、一部署や一つの用途で購入できる範囲を相談する方法もあります。ただし、対象を小さくすれば何でも進むわけではありません。

自社の標準提供で無理なく対応でき、先方も実際に使える範囲を選びます。費用、利用する人、開始に必要な準備、サポートの範囲を合わせてから見積を出しましょう。

前述の問い合わせ整理サービスのモデルなら、今回の対象窓口と問い合わせの種類を決めます。利用後に別の窓口へ広げるかを判断するため、使えた場面だけでなく、使いにくかった場面や先方に残る作業も聞きます。

継続・拡大を考える場合は、次の三点を先に確認します。

  • 利用結果を確認する人と、確認する時期。
  • 対象を広げるときに、改めて必要になる機能・費用・手続き。
  • 継続しない場合の、利用終了やデータの取り扱い。

初期の購入は、その後の全社導入を保証するものではありません。今回の費用で提供するものを明確にし、継続・拡大は結果と条件を確認して別に判断します。

商談の記録は、関心より購入条件を残す

面談後には「反応がよかった」だけでなく、購入検討に必要な条件を記録します。社長の頭の中に置いたままにせず、次に対応する人が見ても状況を把握できる形にします。

問い合わせ整理サービスのモデルなら、次のような記録が使えます。これも編集部の説明例で、決まっていない欄を推測で埋めるものではありません。

購入検討を進める商談記録
記録する項目 モデルで確認する内容
利用部署・用途 どの窓口の問い合わせを整理するか
現在の方法と残る問題 今の管理方法と、改善したい仕事
提供範囲 標準機能で対応する範囲と対象外
購入条件 利用範囲、費用、開始時期を確定するための情報
必要な手続き 先方が指定する確認と、その担当者
次の作業 双方が何を用意し、何を判断するか

この記録があれば、デモをもう一度行うべきか、見積を作れるか、技術担当者の確認が先かを考えられます。営業の回数を増やすだけでなく、購入条件が一つずつ確かめられているかを見ましょう。