ベンチャーが事業提携先を探すときは、会社の知名度より、成長に必要な顧客、販路、設備、運用の知見を持つ相手を選びます。まず欲しい協力を具体化し、候補ごとに事業との適合、使える資産、進められる条件を比べてください。
有名な大企業と話せても、自社製品を使う理由や、仕事を担う部門が見つからなければ、検討が続くだけになることがあります。反対に、知名度だけでは候補に入れていなかった会社が、顧客への接点や実証の環境を持っている場合もあります。
創業間もない会社では、社長がすべての面談に出席する時間にも限りがあります。この記事では、候補を増やす方法に加え、面談する優先順位を決める比較表と、その記入例を紹介します。
目次
「どの会社と組むか」の前に、足りないものを決める
提携先の条件は、自社が次に進むために必要なものから決めます。「大企業の信用が欲しい」という期待だけでなく、その信用や資産を何に使うかまで具体化してください。
たとえば、製品はできているが導入先が少ないなら、対象顧客との接点や販売体制を持つ会社が候補です。製品を現場で動かす条件が分からないなら、対象の現場を運営し、担当者と試せる会社を探します。
自社で顧客対応を担えるかも、同時に確認します。販売先を紹介してもらっても、導入支援や問い合わせ対応を引き受けられないなら、紹介数を増やす前に提供範囲を見直す必要があります。
目的の書き方は、次のように具体化できます。
| 広い希望 | 候補を探すための条件 |
|---|---|
| 販路を広げたい | 自社が対象にする顧客へ、継続して提案する販売担当や契約関係がある |
| 実証に協力してほしい | 製品を試したい現場と、その運用を確認できる担当者がいる |
| 共同開発したい | 自社に足りない技術や設備があり、相手にも開発へ参加する理由がある |
| 新規事業を一緒に考えたい | 自社の強みを使える顧客や事業領域があり、仮説を具体化する担当者がいる |
これは条件を言葉にするためのモデルです。最初から相手のすべての資産を使おうとせず、最初の検証や販売に必要なものへ絞ります。
候補は、顧客・現場・販路のつながりから探す
業種名だけで候補を絞ると、自社の製品が使える会社を見落とすことがあります。対象顧客に近い会社、利用する現場を持つ会社、製品を扱う販売会社という順に、接点を調べます。
物流現場向けの作業支援サービスなら、物流会社だけが候補ではありません。倉庫を運営する小売企業、物流設備の販売会社、現場向けの情報システムを提供する企業なども、今回の目的に応じて比べられます。
ここで、候補を三つの種類に分けてみてください。
- 使う会社:自社の製品を、自社業務やサービスに利用する。
- 届ける会社:自社の製品を、保有する販売先や顧客へ提案する。
- 一緒に作る会社:自社に足りない能力を出し、製品や事業を共同で作る。
一社が複数の役割を持つこともあります。ただし、「販売先を持っている」と「貴社の製品を販売する方針がある」は別なので、後者は面談で確認します。
候補の公式サイトでは、事業内容、対象顧客、協業の募集テーマ、提供可能な設備や拠点を調べます。決算資料や事業紹介に自社の関連領域があれば候補にできますが、記載があるだけで協業予算があると判断しないでください。
金融機関への相談も経路の一つです。三井住友銀行は、新規販売先、新商品開発、新しい市場開拓などのニーズに合わせ、取引先を紹介するビジネスマッチングを案内しています。相談する金融機関が扱う対象と条件は、それぞれ確認します。三井住友銀行公式「ビジネスマッチング」
候補企業は、五つの基準で比較する
候補が見つかったら、自社にとっての使い道と、相手が取り組む理由を同じ表に残します。紹介を受けられそうな会社だけを優先せず、事業として合うかを比べるためです。
以下の五項目は、イノベーション総研が本記事で整理した選定モデルです。点数を付けて機械的に優劣を決めるのではなく、分かっていることと、次に確認することを記入します。
| 比較する基準 | 公開情報で調べること | 面談で確認すること |
|---|---|---|
| 事業との適合 | 対象顧客、商品、事業領域 | 相手のどの課題や機会に使えるか |
| 必要な資産 | 顧客、販路、現場、設備、運用の知見 | 今回、何をどの範囲で使えるか |
| 相手の目的 | 事業方針、協業テーマ | 相手が今回得たい成果は何か |
| 進める体制 | 協業窓口、関係しそうな部門 | 仕事を担う担当者と次の判断は何か |
| 自社の負担 | 公開された応募・参加条件 | 開発、人員、費用、契約条件を引き受けられるか |
この比較で大切なのは、空欄を推測で埋めないことです。公式サイトで確認した事実には出所を付け、面談前の見込みには「仮説」と記します。
NTTデータは、顧客や該当事業部のニーズを確認したうえで、スタートアップの探索から事業の具体化へつなぐ考え方を公開しています。ベンチャー側も、相手の事業で自社の強みを何に使うかまで説明すると、検討すべき仕事を合わせやすくなります。NTTデータ公式記事
比較表の記入例:知名度より、最初に進める仕事を見る
倉庫での作業手順を案内するサービスを持つベンチャーが、提携候補を比べる架空例で考えます。以下は説明用のモデルで、実際の商談や支援実績ではありません。
候補Aは全国に倉庫を持つ会社、候補Bは特定の小売業向けに物流サービスを提供する会社、候補Cは倉庫設備の販売会社とします。製品を試せる現場を得たいのか、販売先を増やしたいのかによって、優先順位は変わります。
| 候補 | 現時点で確認できたこと | まだ分からないこと | 次に確認する仕事 |
|---|---|---|---|
| A:多数の拠点を持つ物流会社 | 倉庫の運営事業がある | 試せる拠点と運用担当、必要な手続き | 現場で試す対象と窓口を確認する |
| B:特定業種に強い物流会社 | 自社が対象とする業種の現場を運営 | 現場課題と、検証へ参加できる担当者 | 利用場面と試験に必要な協力を相談する |
| C:倉庫設備の販売会社 | 倉庫向け設備の販売先を持つ | 自社製品を扱う方針と販売後の支援分担 | 顧客への提案と導入支援の条件を確認する |
最初に現場での使い方を確かめたいなら、Bとの相談を先に進める判断もできます。一方、製品の利用条件がすでに固まり、販路が課題なら、Cを優先して条件を確認する考え方があります。
Aの規模が大きいことだけで優先を決めず、最初の仕事に使える現場や担当者があるかを確認します。未確認の項目が多い候補は、調査の対象であって、協業が具体化した案件とは分けて管理してください。
面談するか、保留するかを決める
経営者の時間を使う先は、今回の目的と次の仕事が見える候補から選びます。候補が合わないと決める前に、どの条件が不足しているのかを整理してください。
面談を進める候補は、たとえば次の状態です。
- 相手の事業に、自社の製品や技術を使う場面がある。
- 相手にも、課題を解決するなどの参加理由がある。
- 次に確認することと、その確認に関わる担当が見えている。
一方、知名度があるだけで使い道が説明できない、希望する資産を今回使えるか分からない、自社の開発負担が大きいまま条件を確認できない候補は、先に確認のための連絡を入れるか、保留を検討します。
保留する場合も、再開の条件を残しておくと役立ちます。「製品がこの段階になったら相談する」「対象の現場へつながったら面談する」など、次の接点の持ち方を決めます。
契約、独占的な利用、情報開示などの条件が自社の将来に影響する場合は、その内容を確認してから判断します。面談する価値と、提携契約を結ぶ価値を同じものとして扱わないでください。
提携先選びでよくある質問
同業の大企業だけを探した方がよいですか?
自社が補いたいものを基準にしてください。同業に必要な現場や能力がある場合も、異業種が対象顧客への販売経路を持つ場合もあるため、業種名だけでは決められません。
複数の大企業と同時に相談してもよいですか?
可能ですが、秘密情報の扱い、既存契約、自社の対応人員を確認します。各社との話を混ぜず、提案内容、未決事項、次の判断を会社ごとに管理してください。
相手の方が大きい会社なら、相手の条件に合わせるべきですか?
条件ごとに、自社の成長へどう影響するかを判断します。追加開発や費用、他社への展開を制限する条件などを把握し、引き受ける範囲を決めてから進めます。
次に行うこと:候補ごとの空欄を一つ確認する
候補企業を、事業との適合、必要な資産、相手の目的、進める体制、自社の負担で比べましょう。その表から、面談前に確認したい空欄を一つ選ぶと、相手への相談も具体的になります。