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企業むすび コラム

新規事業のアイデアをスタートアップの事業から考える

ベンチャーから事業を考える:事業モデルと自社の接点を結ぶ

スタートアップの事業から新規事業を考えるなら、その会社の技術だけでなく、誰に何を提供しているかを読みます。自社の顧客や販路、場所と組み合わせ、どの顧客に新しい価値を届けられるかを仮説にしましょう。

大企業の新規事業担当者が、探索の最初から細かなニーズを決めておく必要はありません。候補企業のサービスを知ることで、自社だけでは思いつかなかった用途を考えることもできます。

ただし、「面白い会社を見つけた」で終わらせないためには、組み合わせる理由と、まだ確認していない顧客の行動を分けます。会社の一覧を、新しい事業の検討へ変える方法を整理します。

目次
  1. 企業むすびの見解:明確なニーズがなくても、組む理由は具体化する
  2. ベンチャーを見るときは、事業の仕組みを読む
  3. 組み合わせる資産は、研究設備だけではない
  4. 「自社が加わると何が変わるか」を一文にする
  5. 社内で使う案と、顧客へ提供する事業を分ける
  6. モデル:地域体験の予約サービスを宿泊客へ届ける
  7. 顧客と現場の確認を、技術の確認と分ける
  8. 最初の面談は、事業仮説への意見を聞く場にする

企業むすびの見解:明確なニーズがなくても、組む理由は具体化する

イノベーション総研代表の長尾は、大企業の新規事業では、ベンチャーを探しながら、その事業を起点にアイデアを考えることもあると述べています。これは本人の観察であり、企業の実施率を示す調査ではありません。

企業むすびでは、探索の入口が相手企業でも構わないと考えます。ただし、候補が面白いから協業するのではなく、自社が加わると顧客の何が変わるかへ、面談の前後で説明を進めることを勧めます。

最初から一つの用途を決めつける必要はありません。相手の提供条件と自社の現場から分かったことを使って、顧客、届け方、費用を払う人の仮説を具体化します。

ベンチャーを見るときは、事業の仕組みを読む

「AIを使っている」「新しい予約技術がある」という情報だけでは、自社と組む事業を考えにくくなります。候補企業が誰の、どんな問題を、どの形で解いているかを整理します。

公式サイトや公開資料で確認できる事実と、担当者が考えた用途を分けましょう。利用者数や資金調達の規模を知っても、自社の顧客へ何を提供できるかは別の問いです。

候補の読み取りには、次の表を使えます。これは編集部が作成した検討用のモデルです。

候補企業の事業を自社の用途へつなぐ読み方
読み取ること 確認する内容 自社との組み合わせを考える問い
顧客 現在誰が使い、誰が費用を払うか 自社に接点がある別の顧客へ届けられるか
提供価値 利用者の何が変わるサービスか 自社のどの仕事や体験を変えられるか
提供方法 製品、オンライン、対面などの提供形態 自社の店舗や販路に組み込めるか
収益の仕組み 販売、利用料、手数料など、公開される範囲 自社と組む場合、誰に何の対価を求めるか
必要な条件 顧客、場所、データ、人員など 自社が具体的に提供できる条件は何か

公開されていない収益や契約条件を、見た目から推測で埋めないようにします。不明な項目は、候補企業との面談で確認する問いに変えます。

組み合わせる資産は、研究設備だけではない

大企業が提供できるものには、顧客との接点、店舗、ブランド、販売や運用の仕事もあります。技術同士の組み合わせに限らず、候補企業が持つサービスを、別の場所や顧客へ届ける可能性を考えます。

例えば、JR東日本は、ヘラルボニー契約作家のアートを駅や鉄道、駅ビルなどへ展開した共創を公式に紹介しています。展示に使った仮囲いを、終了後にトートバッグへ再利用して販売した取組も確認できます。JR東日本「ヘラルボニーとの共創」

この例から参考にできるのは、作品と、顧客が接する場所や商品を結ぶ考え方です。公開情報だけで収益性を判断するのではなく、自社でも何を届け、どこで顧客が接し、誰が買うかを具体化します。

同じような事業を再現する必要はありません。候補企業の価値を、自社が持つ場所や顧客への接点へ移すと何が変わるかを考えるための参考にします。

「自社が加わると何が変わるか」を一文にする

協業の仮説は、両社の名前を並べるだけでは伝わりません。自社が加わることで、対象となる顧客の何が変わるかを示します。

例えば、「予約サービスとホテルを組み合わせる」ではなく、「宿泊者が滞在時間に合う地域体験を、その場で見つけて予約できるようにする」と書きます。誰の、どの場面を変えるかが分かれば、確認する相手を選べます。

仮説の書き方は、次の順で考えられます。

  • 誰に:自社と接点がある、具体的な顧客層。
  • いつ:その顧客がサービスを必要とする場面。
  • 何を:候補企業と提供する体験や仕事の変化。
  • 自社の役割:顧客接点、場所、販売、運用など。
  • 候補企業の役割:製品、サービス、提供能力など。

「自社の顧客基盤を活用する」という説明だけでは、顧客へ連絡する仕事が見えません。どの窓口で、どの内容を案内するかまで、仮の案を置きます。

一つのサービスから、違う利用場面を考える

ホテルと地域体験のモデルなら、同じ予約機能でも、宿泊客が空き時間に使う案、滞在前に旅程へ入れる案、法人の研修旅行へ組み込む案を考えられます。これは編集部が作成した仮説で、需要が確認された事業案ではありません。

空き時間の案なら短時間で参加できる体験と当日の案内が論点です。滞在前の案ならホテルの予約・案内とのつながり、研修旅行の案なら参加者と費用を払う法人の要望を別に考えます。

複数案を並べたら、自社が接点を持ち、相手も提供を検討できる用途から詳しく調べます。予約機能を共通に使えても、顧客対応やキャンセル時の仕事まで同じとは限りません。

社内で使う案と、顧客へ提供する事業を分ける

候補企業のサービスを自社の業務で使う案と、顧客へ新しいサービスを提供する案は、それぞれ確認することが違います。新規事業を考えているなら、顧客へ何を提供し、誰が対価を払うかまで仮説を置きます。

予約の仕組みを社内の仕事に使うなら、現在の作業との適合や導入費が論点になります。ホテルの宿泊客に地域体験を届ける事業なら、宿泊客の必要性、体験提供者との関係、案内と予約後の対応を確かめます。

後者では、予約ができることだけで事業の価値は決まりません。顧客がその案内を必要とする場面があるか、今の探し方と比べて何が変わるか、提供する側も継続できる条件かを確認します。

新しい事業の仮説を、既存サービスの販売計画へ自動的に置き換えないようにしましょう。両社が組むことで追加される役割と、顧客へ届く価値を明確にすることが、次の面談の焦点になります。

モデル:地域体験の予約サービスを宿泊客へ届ける

ここからは編集部が作成した架空のモデルです。地域体験の予約サービスを持つベンチャーと、ホテルを運営する大企業の組み合わせを考えます。

ベンチャーには、地域の体験を掲載し、予約を受ける仕組みがあります。ホテルには、宿泊客との接点と、滞在に関する案内を行う場所があります。

まず考える仮説は、「短い空き時間に参加できる体験を探す宿泊客へ、ホテルから案内できるか」です。ホテルの全顧客が利用するとは想定せず、誰のどの場面に合うかを絞ります。

仮説を整理するシートは、次のように作れます。未確認の欄を、確定した売上や利用の見込みとして扱わないようにします。

ホテルと地域体験予約の事業仮説モデル
仮説の項目 モデルの内容
対象となる顧客 滞在中の空き時間に、近隣で体験を探す宿泊客
新しい提供価値 移動や所要時間が合う体験を見つけ、予約できる
大企業の提供 案内する場所、対象者への接点、現場の運用確認
ベンチャーの提供 体験の情報、予約の仕組み、予約後の対応
収益の確認 誰が費用を払い、各社がどの対価を得るか
最初の確認 宿泊客が今どう探し、何に困っているか

「体験を一覧にすれば予約するはず」という仮説には、まだ顧客の確認がありません。今の探し方、予約しない理由、ホテルの案内を利用する場面を聞いてから、必要なサービスを考えます。

顧客と現場の確認を、技術の確認と分ける

サービスが動くことと、顧客が使うことは別に確かめます。モデルなら、予約機能の確認だけでなく、宿泊客の必要性と、ホテル側の運用が成り立つかを見ます。

顧客には、現在の行動を聞きます。「このサービスがあれば使いますか」という感想だけに頼らず、直近の滞在で何を探し、何を選び、何を断念したかを確認します。

ホテルの現場には、誰が案内するか、問い合わせがあったら誰が答えるかを聞きます。ベンチャーには、掲載できる体験の条件や予約後の対応を確認し、両社の作業を分けます。

この確認で、顧客には価値があっても現場の負担が大きいことや、別の顧客層に合うことが分かるかもしれません。相手企業を否定する前に、仮説のどこを変える必要があるかを整理します。

協業しなくても同じ価値を届けられるかを考える

宿泊客が既存の予約サイトで十分に体験を探せているなら、ホテルが別の一覧を作るだけでは新しい価値が増えないかもしれません。この場合は、移動時間に合う案内、参加の準備、現地での問い合わせなど、今の手段で残る不便があるかを確かめます。

一方、ベンチャーにとってホテル経由の案内は、新しい顧客へ届ける機会になり得ます。ただし、個別の掲載・接続・問い合わせ対応が増えるなら、その負担を上回る理由を相手と相談する必要があります。

面談へは「自社の顧客に売れそうです」という期待だけでなく、自社が行う案内、相手へ頼みたい提供、双方が確かめたいことを持参します。どちらか片側の販路拡大だけでなく、顧客への追加価値と両社が続けられる仕事を一緒に検討しましょう。

最初の面談は、事業仮説への意見を聞く場にする

候補企業へは、会社紹介を求めるだけでなく、自社が考えた用途と、提供できそうな資産を伝えます。実行が決まっていない資産は、社内確認中と説明してください。

モデルなら、次のような問いが使えます。

  • 今の予約サービスは、どの顧客に、どの場面で利用されていますか。
  • 宿泊客への案内に組み込む場合、どの条件が必要でしょうか。
  • ホテル側とベンチャー側で、予約後の対応をどう分けられますか。
  • この仮説で、最初に確かめるべき点は何でしょうか。
  • 顧客や現場の話を聞くために、次にどなたと話せばよいでしょうか。

相手が自社の仮説に同意しなくても、探索が無意味になるわけではありません。候補企業の実際の提供条件を知り、使える用途や自社の役割を見直すことができます。